サンリオは、2025年3月期に過去最高益を更新。
株価も上昇しており、足元(2025年12月)の株価は5年前と比較すると10倍以上となった。
快進撃の背景には、強いビジョン・ミッション・バリュー(VMV)と、浸透プロジェクトの成功があった。
伴走支援を担ったのは、dentsu Japan(国内電通グループ)の「戦略プランナーとクリエイター」が一体となったBX DUOチーム。
鍵となったのは、「サンリオ時間」という非財務価値を測る新たなモノサシだ。
理念を“測れる価値”へと転換したことで、現場の行動や社外の評価はどう変わったのか。
その成果と今後の展望を、4人のキーパーソンが語り合う。

松井 サンリオさんは、ここ数年で大きな成長を遂げました。その背景にあるVMVとの関連を教えてください。
柴田 サンリオは1960年の創業以来、「みんななかよく」を不変の企業理念としています。時代の変化とともに、提供価値をもっと広く捉え、コミュニケーションを通じて世界中に幸せの輪を広げていくために、2021年に「One World, Connecting Smiles.」をビジョンとして定義しました。
木原 売り上げが数倍になり、事業も拡大して多様なバックグラウンドを持った社員が増える中でも、バラバラにならず同じ方向に向かえたのは、強いビジョンがあったからこそ。それが、過去最高益という結果につながったのでしょう。

松井 浸透にあたっての課題はありましたか。
木原 やはりビジョンをどう業務に落とし込むかが大きな課題で、社員それぞれの想いを言語化して深掘りし、「One World, Connecting Smiles.」を含むVMVを浸透させ、実践できるようにしていくことが重要でした。それを支援してくれたのが、dentsu Japanでした。

松井 外部パートナーとして、dentsu Japanを選ばれたのはなぜですか。
木原 当社は、内製で進めることも多い会社でした。しかしコロナ禍で赤字になり、サンリオらしさを保ちながらも、もっと外の力を取り入れようという考えが生まれました。なかでも電通さんは、私たちの企業文化をよく理解し、クリエイティブと論理の両面から支援してくれる、信頼できるパートナーだと感じました。
松井 具体的な伴走支援の内容と、今回意識したことをお聞かせください。

高橋 VMVは整備されていたものの、なかなか浸透しないという課題に対し、まずは「VMVの輪郭明確化プロジェクト」をスタートしました。大切にしたのは、サンリオさんのDNAです。社員の皆さんにはそれぞれ、キャラクターへの思い入れや、入社のきっかけとなったストーリーがあります。それをもう一度思い出してもらい、VMVと自分の体験がつながるような設計を意識しました。
森 VMVというと堅く構えがちですが、エンターテイメントを掲げていらっしゃるサンリオさんには、楽しんで携わっていただくことが大切だと考えました。例えば、ワークショップの設計やそのツールも、「経営・現場問わず心が動くか?」「ワクワクできるか?」を重視して開発しています。
高橋 プロセスにもクリエイティビティを活かせるよう、戦略プランナーとクリエイターの力を掛け合わせた「BX DUO」というチームならではのアプローチです。
松井 VMVを現場業務に紐づけていくための施策や工夫を教えてください。
高橋 VMVを浸透させるには、自主性に任せるだけでなく、会社の仕組みに落とし込む必要があります。そこで人事との接続が重要だと考え、全社的なプロジェクトに広げました。具体的には、人事評価・表彰制度の再設計やマネジメント研修の導入を進め、さらにそれぞれの部門で自分たちのミッションを策定するワークショップなども実施しました。
森 ワークショップでは、部門ごとのワークシートを並べていくとケーキのように大きな円になる仕掛けで、部門間の壁を超えて1つのミッションに取り組む姿を可視化。VMVが浸透している状態を疑似的に体験できるようにしました。

BX DUOチームでは、ワークショップの設計段階からクリエイターが参加。
各部門のワークシートをケーキ型にし、つなぎ合わせると1つの大きな円になる仕掛けで、
自部門の役割を俯瞰しつつ全社としての目的共有と連携意識を促した。
現場では、「これ楽しい」という声も
木原 その過程で生まれたのが、「サンリオ時間」という概念です。理念をより具体的に測る指標が必要だと考え、生活時間の分類(労働・移動・学習など)にヒントを得て、どんな時間にサンリオが関われるかをイメージしました。
柴田 そうして導き出されたのが、サンリオの提供する商品やサービスが皆さまのそばにある「寄り添い時間」と、お客さまが積極的に商品やキャラクターに関わってくださる「夢中時間」です。

お客さまの日常に寄り添う時間、そしてキャラクターやイベントを通じて夢中になる時間。
この2軸を合わせた「サンリオ時間」の総量を累計で算出し、ブランドが届けた笑顔の広がりを可視化した

松井 「サンリオ時間」とは、どのような指標なのでしょうか。
柴田 「サンリオ時間」は、私たちが提供する価値を時間軸で捉え直したものです。例えば、ハローキティのお弁当箱1つとっても、毎日使っていただければそれだけ「寄り添い時間」が増えます。また商品を選んだり、サンリオピューロランドを楽しんだりといった体験は、「夢中時間」に数えます。これらを積み上げていくことで、「どれだけ笑顔をつくれたか」を測ることができます。
木原 この考え方が、社員の意識にも大きく影響しました。「寄り添い時間」や「夢中時間」をどう増やすかと試行錯誤する中で、日々の業務の意味が明確になりました。キャラクターの価値はバランスシートに載らないものの、時間という概念で捉えることでブランドの持続性が理解されやすくなります。
柴田 そのため、「サンリオ時間」は1年ごとでも、累積でも発表しています。2025年3月期は1,140億時間/年でしたが、2035年までには3,000億時間/年を目指しています。
松井 VMVを体現することで、「サンリオ時間」も増えていく。モノからコトへの転換にもつながりますね。

高橋 多くの企業が苦労されているその転換を、サンリオさんはみごとに実現されています。「サンリオ時間」はHR(従業員)やPR(生活者)、そしてIR(投資家)にまで浸透し、社内外の変革にも結びつきました。

森 通常、VMVの浸透は「理解→共感→アクション」という順を踏みますが、「サンリオ時間」を据えたことで、この3つが同時に起こりました。実際に動きながら、リアリティのある状態でVMVを体得できたという点でも、「サンリオ時間」には大きな価値を感じています。
木原 それができたのも、BX DUOチームの皆さんが私たちの言葉を丁寧に拾い上げ、言語化、可視化してくれたおかげです。
柴田 人の心を動かし、行動を変えるところまで設計し、言語化できるチームは本当に少ない。今回ご一緒できたのは、本当によかったと思っています。
木原 何より、様々なアプローチでしっかり芯を作った上で、プロジェクトを自走できるところまで伴走してもらえたことが、ありがたかったですね。

松井 それぞれのお立場から、今後の展望とメッセージをお願いいたします。
柴田 サンリオは、2035年の目標として時価総額5兆円を掲げています。グローバル展開を進める中で、社員数や取引先の数も大幅に増えていくでしょう。その際に重要なのは、足元がぶれないよう、VMVを軸に統一すること。「サンリオらしい意思決定」を世界中同じ基準で行うことで、ブランドの品質を守り、お客さまの安心につなげてまいります。
木原 サンリオエンターテイメントは、リアルな場を実験拠点として、新しい体験や研究を発信する「エンターテイメントラボ」に進化します。特に注力したいのは、「夢中時間」を数値化・可視化する研究です。サンリオのエンターテイメント価値を定量的に示すことで、業界全体にも新しい指標を提示したいと考えます。
森 「みんななかよく」は、環境・人権文脈においても本質だと思っています。サンリオさんは、サステナビリティをわくわくするものに変えていける企業。その力をぜひ地球全体に広げていただきたいです。
高橋 dentsu Japanは、グローバルのVMV浸透プロジェクトにも携わっています。サンリオさんが重視されるのは、ルールではなく“絆づくり”。「サンリオ時間」やVMVが国・地域を超えて、世界共通の言語として根づいていく。そんな未来を共に創っていきたいと考えています。
取材を終えて
日経ビジネス発行人 松井 健
サンリオ好調の背景には、事業変革の成果はもちろん、VMVの浸透を通じた企業価値の深化があります。
当初は、VMVが明確に定まっている同社が、なぜ外部の力を借りるのか疑問に思っていましたが、
取材を通じてその理由がよく理解できました。
特に印象的だったのは、BX DUOチームが、言語化の難しい「価値」や「想い」にまで踏み込んで、
クリエイティビティを用いて可視化や構造化を支援していった点です。
その結果、サンリオの理念が社員一人ひとりの行動にまで落とし込まれた。
さらに、それを自走できるところまで伴走する姿勢にも、dentsu Japanらしさを感じました。
VMVへの共感が、企業価値の向上だけでなく業績拡大にも直結し、
企業そのものの成長につながった好例といえるでしょう。
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