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公開日: 2022/12/15

[日本の人事部「HRカンファレンス2022-秋-」開催レポート] 仕事に対する“モヤモヤ”を“ワクワク”へ変える 働きがいを高め人的資本経営を実現する「心理的資本」とは

最近話題の人的資本経営には、従業員の自律的でポジティブな感情「心理的資本」が不可欠だ。電通グループは独自調査を行い、企業側と従業員側双方にとって重要な資本は、ワクワク感と居心地という結論を得た。早稲田大学の枝川教授による脳科学の知見とともに、今求められる「心理的資本」へのアプローチについて解説した。

プロフィール

枝川 義邦氏(早稲田大学理工学術院 教授/早稲田大学ビジネススクール 兼担講師)
(えだがわ よしくに)東京大学大学院博士課程修了(博士(薬学))、早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。早稲田大学研究戦略センター教授などを経て現職。脳科学の視点を取入れた人材育成、組織開発、マーケティングなどが研究対象。2015年に早稲田大学ティーチングアワード総長賞、2017年にユーキャン新語・流行語大賞を「睡眠負債」にて授賞。

高橋 舞(株式会社電通 GM)
(たかはし まい)大手都市銀行等を経て電通に戦略プランナーとして勤務した後、退職し渡米。MBAを取得し帰国、大手自動車メーカー経企部門に勤務した後、2017年に電通に復帰。豊富なビジネス現場体験を基に企業の変革をサポートしている。

山本 賢二(株式会社電通国際情報サービス アシスタントマネジャー)

(やまもと けんじ)2012年入社後、金融機関向けのコンタクトセンタのセールスを担当後、自社のセキュリティ、RPAサービスの立ち上げからマーケティング、セールスを担当。その後、2020年より健康経営を主体としたサービス「ウェルビングノート」の企画、セールスに従事。

安松 亮(株式会社アイティアイディ マネジャー)

(やすまつ りょう)大手電機メーカーの研究・開発部門(有機ELディスプレイ)を経て現職。“企業がもたらす価値の源泉は、人・組織にある”がモットー。モチベーション・エンゲージメントを軸に、人と組織の在り方に関するソリューションを様々なクライアントに提供している。

株式会社電通グループは、2020年1月に設立された電通グループを統括する純粋持株会社だ。同社はグループ全体のガバナンスに留まらず、価値創造およびイノベーションの創発にあたる全てのグループ内の個社・個人をエンパワーする役割を担う。一般的な持株会社ではなく、電通全体をチームにする会社、すなわち「チーミング・カンパニー」になることを目指している。

電通のグループ全体では国内外で約900社もの企業集団であり、145を超える国と地域に事業を展開、グループ従業員約6万5000名(2021年12月末現在)を抱える。今後はさらに世界に広がる「多様性」と、内なる機能や才能という「多様性」が出会って、創発していく企業グループへと進化させることを目指している。

電通 高橋:心理的資本に関する調査の概要

まず高橋が登壇し、人的資本経営について解説した。

「最近、人的資本経営という言葉をよく聞くようになりました。人的資本経営とは、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方です(経済産業省)。『資源=消費するもの』ですが、『資本=価値を生み出すもの』であり、ここでは人材を資源ではなく資本として見ています」

資本となれば人材も投資の対象だが、その内容は設備とは違うと高橋はいう。

「人材は投資しても成果が表れるまでに時間がかかります。なぜなら、人には感情があるからです。しかも、一人ひとり異なる感情を持っています。そのため、まず社員の『感情』に向き合わなければ投資効果は最大化されません。投資効果を最大化する前提には社員の前向きさと健やかさが必要になります。そこで最近注目を集めているのが心理的資本です」

人的資本経営を行うには、仕事や組織に対するコミットメントであるエンゲージメントが必要になる。そのエンゲージメントの前提としては、ポジティブな心のエネルギーである心理的資本が必要だ。この心理的資本は四つの要素から成り立つと高橋は語る。

「要素はHope (希望)、Efficacy (効力感)、Resilience (レジリエンス)、Optimism (楽観)です。私たちは、これは要するに気持ちとしてのワクワク感ではないかと考えました。自分の仕事に対してワクワクを感じているかということです」

そこで同社は2022年10月に、「仕事に対するワクワク」を分析するための調査を行った。対象は20~69歳男女の会社員(勤務先の従業員数が1000人以上)1000人。分析方法としてはクラスター分析 (ワクワクに対するタイプ分け) と、因果関係と感度分析 (各タイプの特徴抽出)を行った。

「調査の結果、仕事にワクワクできている人は全体で26.5%でした。7割以上の人が今は仕事にワクワクできていない状況にあるということです。年代別では40代~50代でワクワク感が特に低くなっており、役職別では若手層やミドルマネジメント層が特に低くなっていました」

次にワクワクと経営指標の関係性について調べたところ、ワクワクは「継続勤務意向」「愛社精神」「会社推奨度」といった経営指標に寄与していた。

「社員の仕事に対するワクワクを増やすことは、社員にとっても会社にとっても良いことだとわかりました。また、継続勤務意向にフォーカスしたとき、心理的資本であるワクワクだけでなく、環境的資本である『居心地』という資本も重要であることがわかりました」

クラスター分析で行動原理パターンを分析したところ、ワクワクタイプには3タイプあることがわかった。タイプ1「ワクワクドリブンタイプ」は、居心地よりもワクワクが継続勤務意向に寄与するタイプだ。タイプ2「ワクワク+居心地重視タイプ」は、ワクワクも大事だが居心地も大きく継続勤務意向に影響するタイプ。タイプ3 「ワクワク無頓着タイプ」は、ワクワクが継続勤務意向に寄与しないタイプだ。

「構成比を見るとタイプ1が54%と半数を超え、タイプ 2は33%、タイプ3は13%でした。次に継続勤務意向を聞いたところ、タイプ1は30%、タイプ2は77%、タイプ3は19%で、構成比の高いタイプ1の継続勤務意向はあまり高くないことがわかりました。要するにタイプ1は、あまり仕事でワクワクできていないということです」

早稲田大学理工学術院 枝川氏:脳科学的分析(なぜ、ワクワクと居心地なのか?)

次に枝川氏が登壇し、脳科学的に、人にワクワクと居心地のよさが生じる背景を解説した。

「脳の中で情報を伝達する物質にはドパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、オキシトシンなどがあり、これらは脳の働きを調節し、人の個性をつくります。そして、人のワクワクや居心地に関係しています」

ドパミンが多く分泌されるときは報酬を感じていることが多い。新しい環境にいるときも出ており、ワクワクと相性がいい物質だ。極度に集中したときも放出される。次にノルアドレナリンは敵が迫って恐怖や不安を感じたときに放出される。そのようなときは集中したり覚醒度を上げたりしなければならないため、そこでミラクルな力が出たりする。

「ここでワクワク感を感じる人もいますので、ワクワクと相性がよい物質ともいえます」

セロトニンは平穏や癒しに関連する物質で、冥想状態のときなどに放出されている。

「その一方で、セロトニンの情報が伝わりにくい場合には、抑うつ状態になったりします。その意味では居心地と相性がよい物質です」

オキシトシンはホルモンだが、これは信頼や愛情、愛着と相性のいい物質だ。その意味では仲間づくりに関係する物質といえる。

次に枝川氏は、脳内物質に基づく、プロジェクトやタスク遂行などの時間軸に沿った脳内物質の配置プランを示した。

序盤である最初期にはノリアドレナリンを出して短期集中を図る。序盤から中盤では定期的にドパミンを出してワクワク感を得て、後半はセロトニンを出して持続可能性を上げ、居心地がよいように感じられれば長く働けるようになる。

「オキシトシンは信頼や愛着の物質ですから、事あるごとに影響を及ぼします。これにより、仲間に共感しながらチームワークを築くことができます。こうした脳内物質の分泌を促すような流れがつくれれば、会社でも多くの人において継続勤務意向が高まると考えられます」

また、自分の欲求が今どこにあるかを知っておくことも、モチベーションアップに繋がる。ここで枝川氏が示したのは、人の欲求を階層で分類したマズローの欲求階層だ。マズローの欲求階層は、下から「生理的欲求→安全欲求→社会的欲求→承認欲求→自己実現欲求」という層になったピラミッドで示される。

「この中で自分の欲求が今どこにあるかを知っておき、そのスイッチを入れるようにできれば報酬系のネットワークが活発になって、ワクワクを感じられる状態になります」

次に枝川氏は、マクリーンという神経科学者が唱えた脳の階層構造を示した。

「マクリーンは私たちの脳は3層になっていて、そこに3匹の動物が住んでいると述べています。一番内側はハ虫類の脳、その外側に旧哺乳類の脳(イヌ、ネコ)があり、一番外側に新哺乳類の脳(サル、ヒト)がある。マズローの欲求ごとのメッセージも、3層の脳のどこかに刺さるメッセージと言い換えることができます」

枝川氏は「人のメッセージが脳のどこに刺さるのか。これは人の発達段階、経験の過程でどんどん変わっていく」と語る。

「『誰』の『どこ』に訴求されるか、というのは人それぞれです。分泌される物質のバリエーションもあり、メッセージのバリエーションもあるということは、やはり環境がその人なりのバリエーションをつくるといえます」

アイティアイディ 安松:ワクワクの要因分析

次に安松がワクワクの要因分析を行い、タイプ別に解説した。ワクワクドリブンタイプは、自身のやりがいや自己実現、組織貢献の実感などがワクワクにつながっている。

「そうなった動機づけを高めることで、さらにワクワクできるようになると考えられます。動機付けの要因を分析すると、個人の想い/自律性の発揮やマネジメント/組織風土、衛生要因(業務環境)が効いていることがわかりました」

ワクワク+居心地重視タイプでは、自身のやりがいや自己実現、 熱中・没頭がワクワクにつながっている。

「これも同じく動機づけを高めることで、さらにワクワクできるようになると考えられます。動機付けの要因を分析すると、個人の想い・自律性の発揮やマネジメント・組織風土が効いていることがわかりました」

この二つのタイプを整理すると、動機付けの要因で共通するのは「自己効力感」「自己決定」「個人ビジョンの有無」「自身の可能性を広げる機会」。個別の要因では、ワクワクドリブンタイプは「適性に応じたキャリア形成」「共に働きたい仲間」「給与水準の満足度」「仕事量の満足度」があり、ワクワク+居心地重視タイプでは「認められている感覚」「ストレスの小ささ」があった。

「動機付けを高め、さらにワクワクを高めるには、個人ビジョンをしっかり持てるようにする仕掛けが有効です。また、ワクワクドリブンタイプでは『給与水準を上げて満足度を上げる』こと、ワクワク+居心地重視タイプでは『ストレスを小さくする』ことに目を向けるとさらにワクワクを高められます」

電通国際情報サービス 山本:居心地の要因分析

次に山本が居心地の要因分析について解説した。調査によれば、ワクワク+居心地重視タイプの環境資本要因は「迎えられている感覚」「メンバーとの関係」「仕事量の満足」「給与水準の満足度」であり、ワクワク無頓着タイプの環境資本要因は「迎えられている感覚」「見習いたい人の有無」「評価に対する公正感」「部署の評判」「労働時間の満足度」だった。

「この二つに共通する『迎えられている感覚』に着目して、背景を分析してみました。居心地=心理的安全性のイメージがありますが、『迎えられている感覚』は、より踏み込んだ関係性を指すと考えられます」

山本は、迎えられている感覚を持つには、心理的安全性と心理的愛着性の両方が必要と語る。

「心理的安全性とは、チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、 罰したりしないと確信できる状態のことです。また、心理的愛着性とは、思いやりや愛情を、上司やチームメンバーから受け取っているのと同時に自らも与えている状態のことです。この二つが揃うことで、迎えられている感覚を持つことができます」

アイティアイディ 安松:ワクワクを高めるアプローチ

次に安松が、ワクワクドリブンタイプ、ワクワク+居心地重視タイプにおいて、個人の想い/自律性の発揮に着目し、動機づけを高めてワクワクを高めるアプローチについて紹介した。

「個人の想い/自律性の発揮に関わる動機付けの要因は『自己効力感』『自己決定』『個人ビジョンの有無』です。パフォーマンスに直接的につながる動機づけには、楽しさ/目的/可能性があります。この動機づけを高めるには、『WILL: 個人ビジョンを考える』ことと『NEED:組織からの期待を考える』ことの接点から、『一人ひとりのありたい姿』を見出していくことが重要になります」

では、個人ビジョンをどのように考えるとよいのか。安松は「“過去の自身の経験”を糸口に、ポジティブなフィードバックや今感じている想いをもとにして、個人ビジョンを考えることが必要」と語る。

「糸口になる過去の自身の経験とは、『チャレンジした』『がんばった』『やり遂げた』『成長できた』といった経験です。それらをもとに自分でありたい姿を描くからこそ“そこに向かうための動機づけ”が可能になります。自身の力でありたい姿に向かい、また、そのありたい姿に向かわせる上長/周囲のフォローもあることで、よりワクワクが高められます」

電通国際情報サービス 山本:居心地を高めるアプローチ

次に山本が、居心地を高めるアプローチについて解説した。居心地を高めるには、心理的安全性と心理的愛着性を高める必要がある。そのためには「良い人間関係の構築」「サポート体制の充実」「評価の正当性向上」に取り組むことが求められる。

「『良い人間関係の構築』の施策には、雑談ができる場所の設置、会話・質問ができながら業務ができる環境づくりなどがあります。これにより会話が増え、お互いを理解できるようになります。

また、『サポート体制の充実』の施策にはオンボーディング、1on1、メンター制度、健康管理などの方法があります。これらにより、従業員を企業の財産として大切にする風土が生まれてきます。

『評価の正当性向上』の施策には評価者訓練、360度評価、ピアボーナスなどがあり、これらから従業員が評価されていると感じられれば、企業への愛着も高まります」

アイティアイディ 安松:電通グループからの提言

ここで安松が企業における心理的資本へのアプローチについて、参加者に問いかけを行った。

「ここまで“継続意向”と“ワクワク・居心地”の関係を、ワクワクドリブンタイプ、ワクワク+居心地重視タイプ、ワクワク無頓着タイプという三つのタイプから考えてきました。皆さんの会社の人材はどのタイプに近いでしょうか。どのタイプが多いでしょうか。ここまでの話で、継続意向を高めるためのヒントは得られたでしょうか」

最後に、安松は電通グループが推奨する“組織パフォーマンスを高める”手法について解説した。組織パフォーマンスを「個人の自律性×組織の一体感」の2軸で4分割し、「ワクワク≒個人の自律性」「居心地≒組織の一体感」と考えて、今回紹介した3つのタイプを当てはめると次のように分類される。

  • 両方が高い……ハイパフォーマー(ワクワク+居心地重視)

  • 個の自律性が高く、組織の一体感は低い……マイスター(ワクワクドリブン)

  • 個の自律性が低く、組織の一体感は高い……イエスマン(ワクワク無頓着)

  • 両方が低い……パラサイト

「昨今、人材獲得競争が厳しくなる中、まずは従業員に自社にいてもらい、勤務継続意向を持ち続けてもらうためには、会社と従業員がしっかりとエンゲージされている状態が必要になります。本講演により、それぞれのタイプにおいて勤務継続意向を高めるための方法をお話ししてきました。

さらにもう一歩踏み込んで考えると、皆さんの会社の人・組織はどのタイプに向かうべきでしょうか。やはりワクワクと居心地を共に高めることで、ハイパフォーマーの領域に、自社の人材や組織を引き上げていっていただきたいと思います。これを電通グループからの提言としたいと思います。本日はありがとうございました」


※この広告記事は、2022年12月15日「日本の人事部 HRカンファレンス」で公開されたコンテンツを転載しています。

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